「建築の目的とはウェルビーイングであり、人々がその空間の中で気持ちよく過ごしたいと思うことだ。」伝説的建築家であるザハ・ハディド氏はかつてこう語りました。
ヘルスクラブほどこの言葉が当てはまる場所はありません。これを裏付ける数字をご紹介しましょう。三分の一近く（30%）のクラブの潜在会員が、自分が通うジムを決める上で“雰囲気の良さ”が主な要因だとしており、優れたデザインは既存会員を惹きつける上でもやはり重要な要因となっています。「人々がクラブを選ぶ上で最も大きな判断材料になるのは外観や雰囲気ですが、業界全体の傾向として、環境よりも設備を優先させる危うさがあります」とLes Millsのエグゼクティブディレクター、フィリップ・ミルズは言っています。「もし我々が業界の存在をアピールしたいのならば、彼らが家から出る価値のある何かを提供しなければいけません。」
今日の消費者には、かつてないほど多くのワークアウトの選択肢があります。そのため、素晴らしい成果をもたらす魅力的なフィットネス体験を提供することは、会員がリピーターになるためには不可欠なのです。ブティックの成功から我々が何かを学ぶとすれば、人々は今も運動に価値を見出しており、スタイリッシュな環境で本当に素晴らしい体験ができるなら、1クラスあたり30ドルという料金を支払うことを厭わないということです。
グループワークアウトはクラブが提供するクラスの中で、もっとも体験型で参加者の意欲を引き出すアクティビティーです。では、会員が自分もここで早く汗を流したいと思うような感動的な空間を作り出すには何が必要なのでしょうか。鍵となる洞察と専門家のアドバイスに基づき、スタジオデザインがあなたのクラブを成功に導くための7つの重要なポイントをご紹介します。
1. 他の分野からインスピレーションを得る
「何もないところから素晴らしいアイディアが生まれるということは滅多にありません。」伝説的フィットネスデザイナーのルビー・ファビアーノ氏はこう言います。「ほとんどのインスピレーションは自らの経験を通して得るものなので、デザインのアイディアには常に目を光らせておくことが極めて重要です。」
「シアターは文化的なイベントと共に、常にインスピレーションの素晴らしい源となりますが、流行のブティック型クラブはこれを特にうまく利用しています。みんなが立ち上がって踊りたくなるようなナイトクラブやコンサートを思い浮かべてみましょう。自然と体が動き喜びが溢れ出す、素晴らしいものですよね。」
「私はそれをみて、こう思ったのです。“ここにはジムが学べるものがある”と。グループワークアウトは単なるレッスンではなく、パフォーマンスでもあるので、スタジオはデザインやデザインによって会員が得る感覚を通して、彼らのパフォーマンスをサポートし、さらにそれを盛り上げないといけません。」
2. 振付をレッスンだけでなく、体験にも行う
グループワークアウトスタジオは、全体的なメンバーエクスペリエンスや、会員が自分のクラブについてどう感じるかについての方向性を定めることができます。ヨガスタジオで行う静かな禅であれ、HIITの刺激的なクラスであれ、ワークアウトの方向性を定め、人々のやる気を引き出して繰り返し足を運ばせるのは、そのクラスの雰囲気なのです。
スタジオデザインの計画を始めたなら、まずはどのようにして体験の振り付けを行うかを考えましょう。人々がスタジオに足を踏み入れたときに、どのように感じてほしいのか？ワークアウトの最中はどうか？スタジオを出るときは？
メンバー体験は、彼らが施設に入ったときに始まり、その後クラブのあらゆる面で起こり続けます。クラブのあらゆる場所で彼らが何を見て、何を聞き、何を感じるかに対し、細心の注意を払うことで、自らの体験に対する会員のエモーショナルな反応に、影響を及ぼすことができるのです。
3. スタジオの規模を拡大する
「素晴らしいフィットネススタジオの設計をするなら、全員にとって十分なスペースを確保する必要があります。」とファビアーノ氏は付け加えます。「多くの場合、クラブはスタジオを小さく作りすぎてしまうのです。グループフィットネススタジオにたくさんの人を入れるのはいいことです。そうすることは経済的観点からも賢明ですし（以下の図を参照）、話題にもなりますよね。」
「次に大事なのは適切な照明や床材、そしてシアターの感覚を創出する音響を選択することです。しかし、優れたサウンドシステムと万事心得ている人気インストラクターがいなければ、世界最高のスタジオを手に入れても魅力的な場所にはならないでしょう。」
「トレーニングツールも見落とされがちですが重要な要素です。収納は見た目が良く、スペースを最適化し、トレーニングツールに手が届きやすいことが大事です。収納の位置はドアの近くにあるのがお勧めです。そうすれば入室するときにギアを取り出し、帰るときに戻すことができて、クラスの他の参加者の邪魔になることもありません。」
4. スタジオを最適化して成果を得る
限られたスペースの中では一坪一坪が大切になるので、スタジオをできるだけ有効活用することは設計上の重要な検討事項です。見た目の美しさだけでなく、サイズや全体的な雰囲気にも柔軟に対応できるよう、最初にスマートな計画を立てることが肝心です。
デザインに精通しているスタジオは、早朝のHIITクラス、その後のマインドボディワークアウト、午後のビデオ・オンデマンドセッションに対応し、そこからシームレスに夕方のピークの高エネルギー環境へとつなげることができます。
ニュージーランドのLes Mills New Lynn clubのマネージャー、ジャシー・グリフィンは、最近中間層向けクラブの活用されていなかったスペースを、ブティックスタジオに改築しました。彼女はスタジオがベストな構成のプログラムを提供できるよう、データのベンチマーキングを実施するよう提案しています。
「対応すべきトレンドや会員カテゴリーが多岐にわたる中、クラブのスペースをどのように割り当てるかを決定するのはとても難しいことです。」ジャシーはこう言います。「我々の重要な指標のひとつとして、ワークアウトスペース一平方メートルあたり2.1人のアクティブ会員に対してサービスを提供するということを目標としており、これに基づいてキャパシティ管理や投資に関する意思決定を行っています。我々は、ブティックが幅広いクラスを提供することができる、多目的スペースとなると確信しました。そしてこの新しいスペースは、キャパシティ指標と会員総数の両方を強力に後押ししてくれる存在になったのです。」
5. 会員にクラブのマーケティングをしてもらう
「SNS、特にInstagramは、フィットネスに注目を集めるのに大きな役割を担っています。」とファビアーノ氏は語ります。「ワークアウトを紹介するための見栄えの良い空間を生み出すことができれば、会員はそこで喜んで写真を撮り、SNSで共有して、友人たちに対してクラブを絶賛してくれるのです。」
クラブの名前がわかる、インスタ映えする壁を作り、会員が自分達のフォロワーに「私がいるのはここです。楽しいですよ。一緒にやりませんか？」と言ってくれるようにしましょう。これがうまくできれば、会員はあなたのクラブに代わってマーケティングをしてくれるようになります。
「長年私が経営してきたクラブでは、グループエクササイズは会員売上を高める一番の原動力であり、ソーシャルメディア向きの宣伝材料となっています。」伝説的な経営者であるハーブ・リプスマン氏はこう付け加えます。
「FacebookやInstagramでは、人々はお気に入りのトレッドミルやレジスタンスマシンの話はしません。実際は、最高のインストラクターのいる素晴らしいクラスに参加したことを熱く語ったり、汗を流して達成した瞬間の自撮り画像をシェアしたりするのです。つまり、クラブの認知度と露出度を高め、潜在会員の健全な開拓を維持する大きな推進力になるのです。」
6. イノベーションでクラブを盛り上げる
フィリップ・ミルズはFIBO 2022での最近の基調講演で、大手の大型スポーツクラブが既存の施設内にブティック型のスタジオを置くことで、若い消費者を惹きつけ、近隣のブティックがもたらす脅威を打ち消していることを取り上げました。
講演の中で、既にパンデミック前の会員数を上回り、世界で最も収益性の高いクラブと言われているシカゴ（アメリカ）のMidtown Athletic Clubの成功例を挙げ、会員数を拡大するためにはデザインとプログラムの両面において新たなイノベーションに投資することが重要性であると強調しました。
「これまでの2年間で我々はみな会員数を減らしており、できるだけ早く会員数を回復させる必要があります。つまりクラブを盛り上げるために新しいことを始めねばならないのです。」フィリップ・ミルズはこう語ります。
「世界的な金融危機の最中にも、Apple Storeには最新のiPhoneを買うための行列ができていました。これが私たちの目指すべきレベルです。最新のトレーニングツール、興奮を引き起こす新しいクラスコンセプト、クラブ内のブティック、シックでダイナミックな内装など、世界で何が起きていようとも人々を動かすのに十分魅力的なものを提供するのです。」
7. スタイルを実体に優先させてはいけない
「これまでメンバーエクスペリエンスにおけるデザインの重要性について述べてきましたが、優れたチームと優れたプログラムの重要性を軽んじるつもりはありません。」ファビアーノ氏はこう強調します。
「それこそがフィットネス空間の中核であり、魂なのです。そしてデザインはこれらのものすべてが正しく見えるようにするためのバックアップであり、正しく伝わるようにするためのものです。穏やかなヨガクラスからBODYPUMP™のような激しいワークアウトまで、次のステップに進むための安心感や心地良さを提供するものなのです。」
「とはいえ、デザインは人々がある空間にいるときの感じ方を変えたり、認識を改めたりすることに大きな影響力を持っています。プログラムは単独では成立しません。デザインは人々の体験を向上させ、プログラムを単なるワークアウト以上のものにするために極めて重要なのです。」
