ベトナムを拠点に活動するトラン・ゴック・サンは、声の使い方を知り尽くしています。『ライオン・キング』『アナと雪の女王』『スター・ウォーズ』といった人気作の吹き替えをはじめ、adidasやAppleなどのブランドではボイスコーチを担当し、さらにはLes Millsインストラクターとして日々クラスを盛り上げるマルチタレントです。
そこで、インストラクターにとって大きな武器のひとつ、「声」を最高の状態に保つ方法を聞いてみました。普段からサンが実践していることとは? 今回、Les Millsインストラクターにだけ特別に教えてくれました。
まず、担当しているLes Millsプログラムを教えてください。また、インストラクタージャーニーにおいて特に思い出深い出来事はありますか?
サン: ベトナム・ホーチミンにあるCITIGYMで、BODYATTACKやBODYSTEP、BODYPUMP、そしてLES MILLS COREを教えています。 ベトナム・ホーチミンにあるCITIGYMで、BODYATTACKやBODYSTEP、BODYPUMP、そしてLES MILLS COREを教えています。
一番の思い出はSAIGON CALLINGです。ベトナムで開催された史上最大級のLes Millsイベントで、600人以上の参加者が集まり大盛況でした。
そこで憧れのリーガン・カンと同じステージに立ち、BODYPUMPをチームティーチするという信じられないほど光栄な機会を得ることができました。あの時のエネルギーやコミュニティ、そして感情は、まるでジェットコースターのようでした!
ボイスコーチとしての経験は、どのようにLes Millsのクラスに活かされていますか?
サン: Les Millsインストラクターとして活動する上で、声は最大の武器のひとつになっています。
クラスでは、単にエネルギッシュに動くだけでは不十分だと考えています。スタジオというハイエナジーな空間で、最も効果的な方法で「声」を使うことに重きを置いています。インストラクターの声は、単なる音ではなく体験の核となるものだからです。
クラス参加者が私の声をしっかりと聞き取ることができ、さらにモチベーションを維持できるよう、呼吸のコントロールやハッキリとした発声、声のトーン、そして届け方などを工夫しています。
重要なのは、声の大きさではありません。それを忘れないでください。より賢く声を出すということ。声の出し過ぎで疲れてしまうのではなく、自分を支えてくれるような声を出すのです!
トレーニングと同じように、声にとってもクラス前後のウォームアップとクールダウンは大切です。これにより喉の健康が保たれ、常に力強く明瞭な声で指導することができるようになるのです。
しかし、こういったテクニックは声のごく一部に過ぎません。ボイスコーチングを通じて、私は「声で微笑むこと」、つまりクラス参加者と感情レベルでつながる方法を学びました。各参加者が「見てくれている」「支えられている」「もっとできる」と感じられるように、毎回クラスで実践しています。
声を鍛えることは本当にできるのでしょうか?
サン: もちろんです! 声は道具であり、どんな道具でも研ぎ澄ますことはできます。練習を積み重ねれば、私たちLes Millsインストラクターは、声を駆使してコーチングスキルを高めることができます。特に言葉でしかキューイングできないクラスでは、その効果は圧倒的です。
呼吸のコントロール、ハッキリとした発生、声のトーン、そして届け方。これらすべてが揃うと、自信に満ち溢れた指導と参加者と深くつながることが可能になります。力強い声は、参加者に「支えられている」という感情や、クラスを最後までやり遂げる力をもたらすことができます。
しかしながら、筋肉と同じく声にもケアが必要です。身体同様、声の出し過ぎは喉を痛める原因になりかねません。
結局のところ、私たちインストラクターの声は音楽を引き立てるものです。クラスを通して参加者がモチベーションを保ち、エネルギーとパワーに満ちたワークアウトができるようにサポートすることが目的なのです。
ここで、力強い声を保つための10のコツを紹介します:
1. 必要に応じて沈黙を活用する
ワークアウト後に筋肉を休ませるのと同じく、クラスの合間には喉を休ませましょう。
2. 声のウォーミングアップをする
クラス前に、軽いハミングや音階練習、呼吸コントロールのエクササイズなどを行い、声のウォーミングアップをしましょう。
3. 蒸気で喉を潤す
加湿器などを使い、蒸気で喉を潤しましょう。特に乾燥した季節やスタジオでのクラスに効果的です。火傷には十分注意してください。
4. 水分補給を徹底する
薄い塩水には、喉を殺菌し、落ち着かせる効果があります。また、レモンと蜂蜜を入れたお湯もいいでしょう。1日を通して、特にトラックの合間にはこまめな水分補給を徹底し、喉が乾かないようにしましょう。
5. 首を温める
寒い時は、スカーフを巻くなどして首を温めましょう。首の凝りを減らすことで、喉への負担も軽減します。
6. リラックスを心がける
マインドフルネスや瞑想、軽いストレッチなどを行い、声のパフォーマンスを維持するためにリラックスする時間を確保しましょう。
7. 自分の限界を知る
喉を酷使しないでください。自分の身体が発する合図に耳を傾け、疲労を感じたらペースを落としましょう。必要であれば、視覚的なキューイングやジェスチャーでクラスを進行しましょう。限界を知ることも大切です。
8. 意図的に声を使う
むやみに叫ぶのはやめましょう。声は、効果的なタイミングで、そしてクラス参加者のモチベーションを高めるために使います。皆さんは鬼軍曹ではなくガイドのつもりで、明確な意図を持って声を使いましょう。
9. ニュートラルな姿勢を保つ
クラス中は、首と背骨が一直線になるよう、ニュートラルな姿勢を保ちましょう。こうすることで空気の流れがスムーズになり、よりクリアで力強い声を出せるようになります。
10. キューイングに「間」を設ける
クラス参加者がインストラクターの指示を理解できるよう、キューイングには「間」をとるタイミングを設けましょう。常に声を出し続ける必要はありません。こういった間は、あなたの喉にとっても参加者の理解度にとってもプラスになります。
あなたの声は、クラスの雰囲気を作り、参加者のモチベーションを高め、スタジオにいる全員とつながるために使うべきものです。だからこそ、自分の声を完全にコントロールすることが重要なのです。
音楽とマイクの完璧な音量バランスは、どのようにして見つけていますか?
サン: すべては調和なのです。音楽はあくまで場を盛り上げるためのものであり、クラスの雰囲気をかき消すようなことがあってはなりません。私は、スタジオの雰囲気に応じて音量と声の出し方を調整しています。もし参加者が私の声を聞き取れなかったり、音楽がワンパターンに感じられたりしたら、クラスが生み出す魔法は消えてなくなってしまいます。
私はIMT(イニシャルモジュールトレーニング)で学んだ「音楽と一緒にチームティーチをする」という基本を守っています。つまり、音楽が発するエネルギーに自分の声を合わせるのです。まるで音楽と会話するように、ビートが盛り上がれば声のトーンを上げ、静かな曲に変われば声も和らげます。クラスのピークでは、トラックと張り合って声を大きくするのではなく、スタジオ全体のエネルギーを高めることに注力します。
マイクが使えないスタジオもあるかと思います。そういったケースの対処法はありますか?
サン: プロとして声の仕事をしている自分にとって、音響はすべてです。私はいつも早めにスタジオに入り、その日のプレイリストだけでなく、マイクや音響システムのチェックも欠かしません。機材に妥協は禁物です。また、マイクセットの予備も持ち歩いています。
マイクがないクラスでは、臨機応変な対応を心がけています。叫ばずに済むギリギリまで音楽の音量を下げ、本当に必要なキューイングだけに絞り、あとは視覚的なコーチングを多用します。時として、マイクなしでの指導は、明瞭さや目的意識、存在感といった基本を思い出させてくれます。そういったシチュエーションはチャレンジであると同時に、自分の指導スキルを磨くチャンスでもあるのです!
サンがクラス前後で行う声のケア
クラス前
クラスの前には、口を閉じたまま「オム」とハミングします。息をいっぱいに吸い込み、心地よいボリュームで息が続かなくなるまでハミングを続けます。これを数回繰り返しましょう。まずは楽に出せる高さから始め、徐々に音を低くし、余裕があれば元に戻すところまでやります。これは優しい声のウォームアップで、呼吸のコントロールを活性化させるのに適した方法です。
クラス後
夜は仰向けに寝て、ゆっくりとした呼吸を意識します。鼻から息を吸い、口から吐き出します。この時、息を吸い込むよりより長い時間をかけて吐き出します。吐く際は「シーッ」と音を出し、唇はわずかに開き、舌を軽く口蓋につけます。こうすることで呼吸のコントロールが向上し、声の持久力をサポートすることができます。